はじめに

僕が人生において大切にしてきたことの一つは、座学や知識の吸収を中心とするインプットに加えて、インプットを社会の中で実装し、社会課題の解決に活かすためのアウトプットです。分野、規模、そして関わる人々の種類が全く異なる社会課題解決に向けたプロジェクトの創出と実行を通して、僕が「プロジェクト」そのものに対して考えていることもまた、日々刻々と変化しています。このページでは、これまで少しずつ積み上げてきたプロジェクトのうち、特に代表的なものについて、自分の内省・思考の変化と共に記録します。

秋田県大館市役所・秘書インターン

2017.8 - 2019.3

大館市での経験と並行して、同一の社会の中でも異なる生活基盤を有する人々の営みとしての生活のあり方に興味を持った。

プロジェクトウィークと呼ばれるUWCのカリキュラムの一環で自分達で企画をしたものなので、プロジェクトを作る側面には強制が伴っているという点で厳密には自主的ではない…。一方で、シンガポールのNPO団体でのボランティアを1年間続ける中で、「生きる」という営みにおける基盤が当たり前ではないこと、社会の中で都合よく隠されていることに気付かされた。そしてそれがシンガポールに限らず、マレーシアや自分が住んでいた日本でも同様のことが言えるはずだと考えるようになった。この頃から、僕らには何が社会の中で本当に見えているのか・見えていないのか、について考えるようになった。

 

ボランティアを終えて、マレーシアの中でも恵まれているとは言えない環境の中で1週間、現地の子どもたちと生活を共にすることは自分がいかに恵まれた環境で盲目的に恩恵を受けて育ってきたかを強く自覚させられ、また一方ではボランティアツーリズムやボランティアそのもののあり方、特にボランティアを含む社会性を持つあらゆる活動が「社会貢献活動」としての実績づくりに利用されている現況に対して批判的に考えるきっかけとなった。

WEIN STUDENT SUMMIT立ち上げ・初代代表

2020.8 - 2021.1

WEINでの学生団体立ち上げと、学生会議主催の経験は、社会的インパクトの大きな企画を一つ立ち上げるという観点において自分にとって大きな影響を及ぼした。よかった点は、コロナ禍において人々の社会との接点が希薄化し、どこかに属している感覚が失われていくという課題に対して、当時出始めたばかりであったzoomを始めとしたオンラインテクノロジーを使って、学生同士が再び居場所と言える場所をオンライン上に創出することができた点である。また、この居場所を基点としてメンバーが「オンライン・オープンキャンパス」を始めとするような自主企画を数多く立ち上げ、当初は自分が想定していなかったより広範な人々に対して機会を提供しようとした動きが生まれたことは、自分達が住む社会をより良いものにしていこうという意志をメンバー間で統一することができた証左だと考えている。こうして、社会をよくすることに対して意識と行動を伴わせた人々が多く所属していた組織となった学生団体は、現段階で既に5社以上の起業家を輩出し、実質的にアクセラレーター・プログラムとしての素地を有していたとも言える。

一方で、私個人としては社会課題を解決するためのプログラムを構想しながらも実行することの難しさを痛感するきっかけともなった。規模が大きくインパクトも大きなイベントを成功させることができ、現在にも続く組織を作ることができた点は非常に思い出深いが、同時に組織が大きくなればなるほど、増大するステークホルダーへの対応を難しく感じた。自分が実現したいアイディアを有していても、ステークホルダーとの協調の中でビジネス的な成功を収めるためには、自分が大切にしている価値観を一度曲げなければ協調が達成できなかった点は当時の自分の力不足であり、至らない点だったと認識している。また、こうした状況の中で自分が大切にしていたメンバーが、方向性のずれから組織を抜けていってしまったこともまた、自分が人との向き合い方を改めて模索するきっかけとなった。特に、ビジョン型リーダーとひとえに述べても、いたずらに共感を惹起し、目標の達成のために共感を「利用」していた点が自分のリーダーとしての未熟な点だった。この点から、残る大学生活ではプロジェクトの実行段階における「共感」のあり方や、ビジョンの持ち方や届け方といった細部にこだわるようになった。

Social Science Boot Camp 立ち上げ・代表

2022.9 - PRESENT

WEINでの経験を経て、共感とビジョンのあり方について、大学生活でのプロジェクトを通して模索してきた。しかしながら、大学2,3年生に立ち上げたプロジェクトはいずれもスケールするに至らず、苦悩の時間を過ごした。総括すると、ビジョンの実現に向けて奔走しつつも、耳障りの良い言葉でいたずらに人々の共感を惹起することを避けようとした結果、コミットメントが中途半端なプロジェクトを作ってしまったことが、最も大きな失敗要因であった。

その中で、大学生活の集大成として位置付けたのがSocial Science Boot Campだった。私が所属する一橋大学は現在、学生の約7割が首都圏出身者であり、地方からの出身者は限定されている。加えて学生の割合も男女比が7:3であり、ジェンダーバランスにも問題を抱えている。こうした問題に加えて、今まで自分は大学外で多くのプロジェクトを作ってきたが、卒業前に大学に対して何らかの貢献がしたいという自分のエゴと、これまでに得た成功と失敗を、最後こそ成功に活かしたいという思いが、大学で最後にプロジェクトを立ち上げるきっかけとなった。特に地方の学生を対象として、社会科学の面白さを無償で届けるためのプロジェクトとして、Social Science Boot Campは立ち上がった。

所属する国際関係系のゼミである秋山ゼミの有志と共にブレストを進め、12月にはSocial Science Boot Campを正式にリリースした。地方の学生たちに確実に情報を届けるために私たちは自分達の有している人脈をたどり、友人の出身校などに直接広報を行った。その数は高校で160校を数え、おおよそ7万人の高校生に対して情報を届けることに成功した。当初は15-20人程度の参加を見込んでいたが、蓋を開けてみれば100名に迫る応募をいただき、選抜のプロセスは困難を極めた。

この企画が成功したのは紛れもなく、有志での参加を決めてくれたゼミ生の献身性と自主性にある。高校生に読んでもらうための参考文献を決めるところから、選抜プロセスにおける評価基準の策定、広報ポリシーの策定などを、経験の有無に関わらず手探りの中で方針を一人一人が決定し実行できたところがイベントの成功につながった。私が特にこだわりを持っていた部分は、クラウドファンディングの実施である。地方の学生が上京を断念する大きな理由の一つとして、金銭的な壁が存在する。自分が望む教育を受けられる立場にいながらにして金銭問題によってそのアクセスが妨げられることは絶対にあってはならないと考えていたので、信念を持ってクラウドファンディングの実現と目標金額の達成に邁進した。

ここで再び壁となり、そして鍵となったのが、「共感」の考え方である。自分が人に響く言葉を予想し、自分自身を人々が理想として考える形に投影すれば、実は共感を惹起することは簡単である。しかしこれでは大学1年生の二の舞になってしまい、表面上かつビジネスチックな共感に終わってしまう。そのため、今回は特に企画に対するビジョンを徹底的に磨き上げることと、その実行を覚悟を持って自分が先頭に立って推進することに腐心した。その結果、自分がマーケティング的に有用であると考えるロジックを使わずとも人々から自然な形でプロジェクトに対する共感が生まれ、自然と支持者が増えていくという好循環が生まれた。私がこの経験から学んだことは、大きく1つに集約される。それは、真に社会のためになることであり、その実現可能性を人々に信じてもらえる場合には、共感を自然と呼び起こすことができる、ということである。これは、人々に対してプロジェクト(やプロダクト)の情報を届けることを怠るということではなく、自分達が有しているプロジェクトを徹底的に磨き、それが誰のためになるのか、どういう世界を描きたいのか、ということを細部まで考え抜くことで、「結果として」人々に情報が届きやすくなり、人々に共感をしてもらえる、ということだと考えている。